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労働規制緩和問題についての公開学習会、成功する

 本日(3日)午後、名古屋市女性会館にて、公開学習会「新たな労働分野の規制緩和を問う~『ブラック企業』の横行を許さないために~」を、和田肇名古屋大学大学院法学研究科教授を講師にお招きして開催し、組合員・賛助会員、ユニオン関係者ら、30名ほどの参加者により成功しました。以下、和田教授の講演の内容を筆者なりにまとめることを中心に報告します。

 午後1時30分、司会あいさつの後、和田教授が講演されました。和田教授は主に、アベノミクスの雇用改革について、解雇規制の緩和・労働時間規制の緩和・限定正社員に焦点を当てて話されました。

 冒頭に和田教授は、80年代から進められてきた規制緩和による雇用崩壊が、民主党政権下でいったん改革の方向に向いたにもかかわらず、安倍政権はまたさらに崩壊を進めるのではないかと危惧を話されました。たとえば労働者派遣法の改正問題については、2000年代から派遣問題での裁判が起き始め、松下PDP裁判などもあり、最近ではマツダでの勝訴もあったのだが、マツダの判決の前提に派遣法改正の流れ(「みなし規定」の施行を控えた)があるのに、安倍政権はこの施行をやめようとしている。派遣労働者は労働者の2%に満たない少数だから大した問題ではないという言い方をする人もいるが、派遣労働自体の問題もあるばかりか、安倍政権は労働規制をできるだけなくし柔軟度を高めようとしている、として、まず解雇規制の緩和について触れました。

 解雇規制の緩和については、たとえば、国際比較をして日本が解雇規制が厳しすぎると言われているが、他国と比べる際にその国のシステム全体を把握したうえでの議論をしているとは言いがたい、と批判しました。また、正社員と非正社員、男性と女性の差別はいけないと言いながら、正社員の雇用が守られ過ぎだ、と規制緩和の方向に向かおうとするのは、雇用全体の不安定化を招くと批判しました。また、解雇権濫用法理が厳しすぎるという話もされるが、実際の裁判例では、必ずしも解雇がまったくできないということではないし、たとえば解雇回避努力が足りないと見なさざるを得ないから解雇無効とされたりしている。また、金銭解決制度についても、解決の方法として金銭解決の場合もあるが、これを制度化すると企業は金を払ってでも解雇しようと悪用することも想定されるから、労働契約法制定時に、大議論の末、盛り込まなかった、という経緯もあるとも紹介されました。

 続いて、労働時間規制の緩和について話されました。使用者側の言う「管理監督者」に当たらないと労働者側が主張して敗訴した例は自分が知る限り一つもない、マクドナルドの店長の裁判も厳格な基準を適用して判決を下している。そこで使用者側は裁量労働制を切り口にホワイトカラーエグゼンプションを導入しようとしている。しかしアメリカではホワイトカラーはブルーカラ―とまったく違う労働条件だったり、過労死もなかったりするのに、日本では80年代以降急激に増加した過労死にも、その背景にある長時間労働にも、安倍政権は全く触れないでいる。過去、このようなアメリカの事情などを議論したりしてホワイトカラーエグゼンプションの導入をさせなかった経緯もある、とのことでした。

 続いて限定正社員について話されました。まず正社員については、よほどの事情がないと配転を拒否できないという判例が出されてしまっており、反面、家族的責任があってそこまでできない人が非正社員になっている、という現状が示されました。そこで、最初はワークライフバランスとか正社員化のステップとかの理由で限定正社員と言われ始めていたのが、経営側から、限定正社員型の雇用ルール(解雇についてとか、賃金についてとか)という話が出てきたため、正社員を二階層に分けるものだとか、女性は限定正社員を選ばざるを得ないとか、正社員化はそう簡単に実現できないだろうとか、の批判を、されるようになっている。しかも、正社員のワークライフバランスとかディーセントワークとかパートタイマーの均等待遇とかずっと議論してきたことがあり、普通の家族を大切にする人がモデルにならないとおかしい。しかし実際には二流の正社員制度をつくるという話になってしまっている。これは95年の「新時代の日本的経営」と同じ発想だ。この「日本的経営」は、法改正はせずに経営側が新たな雇用政策のバイブル扱いにしてきた文書であり、この政策によって非正規労働者が激増している。7~80年代では非正規労働者といえば主婦・高齢者・学生アルバイトであり、家計補助者だった。その想定で社会保障システムもつくられてきた。しかし今は家計の中心を担う人が非正規で低収入で社会的貧困に陥っている。この非正規労働者の待遇改善という話は出てこない。5・6年前には日本でもアメリカでも、このままでは雇用社会の持続性は高まらないし、中間層を厚くしないといけないとも言われていた。これも安倍政権は元に戻そうとしている。いや、改憲を言い出しているように、どんどん雇用の二極化など、悪くしようとしているのではないか、と話されました。

 時間があまりない中、最後にブラック企業について話されました。残業を過労死レベルまでしないと基本給から差し引くという賃金体系を取っていた庄やとか、年1800時間残業できるという労使協定を結んでいるIT企業の例など、ひどい企業が増えてきている。トヨタも例外ではない、と言われました。そして最後に、いろいろな課題での運動とも連携して日本企業を変えていく運動を、若い人を含め、進めていこうと呼びかけて、一時間半ほどの講演を終えました。

 休憩に入り、そこで質問用紙に多くの人が質問を寄せました。再開後、和田教授に答えていただきました。まず改憲による労組への影響について、との質問に対しては、直接案文では触れてはいないし、それほど組合が怖がられていないという現状もある。しかし、公の秩序を真っ先に謳っていたり、全体に、ひどい案で、数で押し切ったり、閉塞感の中で鈍感になっていたりすると怖い、とも言われました。次に、国家戦略特区に愛知などを指定して労働法の適用除外を設けるとの姿勢を示していることについては、労働法はすべての人に適用することとした法規なので難しいとは思うが、権力を持って強引にやるという面がどれだけあるか、ということも言われました。また企業の内部留保の問題については、国が内部留保を出せとは言いづらいので、労働組合が運動するしかない。和田教授自身も組合活動をされている経験から、民間準拠の賃金からしても、ずっと賃金が下がってきているのはわかる、先進国でずっと下がっているのは日本だけ、と言われました。また派遣労働者の問題については、派遣労働者がもっとも矛盾を集中しやすい、人間の尊厳にも関わる問題、と言われました。また、パートについても、処遇改善など規制を強化すべき点には怠慢になっている、と言われました。さらに、労働法における罰則については、安全、健康に関わることでは必要だが、罰則に頼るというより、自分たちの権利を自分たちで守らないとだめで、労働法と労働組合は車の両輪で、両方が機能しないとだめで、労働組合の大切さを言い続けないといけない、と言われました。また、公務員の政治活動の禁止について、露骨なやり方はしないと思うが、ご自身も、04年の4月から国家公務員ではなくなったのに仕事は全く変わらないことからして、公務員だから禁止するという根拠がわからないし、表現の自由の制限も露骨にはしないが秘密保全法や日常生活の監視などは危険、と言われました。また、ブラック企業の経営者のモラルを問う意見も述べられました。また、大企業のユニオンショップ制組合の現状への批判を述べた参加者に対しても、組合が個々の組合員の問題を取り組まないとか、超長時間残業を容認しているとか、社会的責任を果たしていないとか、も言われました。このように、多くの質問に、丁寧に答えていただきました。

 これで学習会はいったん終了しましたが、半数以上の方が残って、引き続き、懇親会を行ないました。各自自己紹介をしていったのですが、和田教授も組合活動もしている立場からも、積極的に意見を言ったりして、一時間以上、活発な懇親会となりました。また、最近組合に加入した参加者も何名もおり、組合員同士の交流も深まりました。

 こうして公開学習会は成功させることができました。その中でも強調されていたように、安倍政権の下で雇用破壊が進む中、労働組合の頑張りが今必要になっていることを改めて感じさせられました。参加し、成功のために頑張った皆さん、お疲れ様でした。