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NHK「事件の涙」・過労死防止大綱見直し案

 昨日(3月19日)の午後11時からのNHKテレビ「事件の涙」は、15年12月に過労自死した元電通社員・高橋まつりさんの母親・高橋幸美さんに焦点を当てていた。NHKはこの番組の中で、自らの社員であった佐戸未和さんの過労死を13年7月に引き起こした当事者として、その件も交えて番組をつくっていた。テレビ業界の問題が取りざたされる中でこうした番組が放映されること自体の意義も含め、ユニオンの立場でも、いろいろと考えさせられる内容だった。


 なお、同日(19日)、厚労省は、「過労死防止大綱」の見直し案を示した。報道によると、7月に新たな大綱をまとめ、それに基づいて今後の対策を打ち出す予定だそうだが、そこでは、フリーランス保護・「重点業種」に「芸術・芸能分野」を追加することを決めた反面、「勤務間インターバル制度」の「導入企業割合を15%以上」という目標達成を「25年まで」から「28年まで」と後ろ倒ししているように、矛盾した面も示されているようだ。「死にいたる病」を引き起こす過重労働の改善は、なかなか難しい。


 さて、番組をご覧になった組合員などもおられると思うが、筆者が印象的だったのは、過労死遺族である幸美さんの「死ぬくらいなら死ぬ気で逃げる」という言葉だった。番組では「組織より自分」とも言いかえられていたようでもあったが、幸美さんご自身が「死」も考えさせられる闘病にも直面していたことと併せ、これはおそらく単純な二者択一ではなく、「生か死か」という究極的な選択の問題なのだろう。組織としてのNHK(電通とも関係を持つマスメディアでもある)は、こういう言葉を番組で流すことで、若干なりとも傷を負うだろうけれど、そしてその傷を自らの傷として負わされ、負ってきた当事者が、過労死に追い込まれるという矛盾の究極において、なお「死ぬ気で」逃げることが大事なのだというシングルマザーの幸美さんの訴えからは、番組中で率直に語られていた過労死遺族らの「子供への恨み」の思いとともに、残された者の生と、「死にいたる病」から死を選んでいった生とが交錯して、苦い思いを感じさせられる。


 この過重労働の削減を掲げた「働き方改革」は、現場での矛盾もなお抱えつつも、上記の「過労死防止大綱」に示されるような行政の介入も含め、進められつつある。だが、矛盾が、ハラスメントで、精神障害で、そして過労死で噴出している現状は、簡単には変わっていかない面はあることもまた、幸美さんに寄せられる幾多の声からも、「防止大綱」の内容からも、わがユニオンに寄せられる相談の現状からも、感じざるを得ない。とはいえ、矛盾は構造的な問題なのかもしれないけれど、ユニオンもまた、その矛盾の一端を担ってもいる。


 実際、わがユニオンの、大変さもまた、一運営委員としての筆者からしても、大会を前に、改めて考えさせられる話である。有能さやまじめさが過労死を招くなら、それなり人間はそれなりに、できることをやっていこうというのは、甘えなのかそうでないのか、とも思うのだが、でも個人にできることは限りがあり、だから私たちは労働組合という組織を組織しているのだから、と思い直して、「事件の涙」に、わずかなりとも応えられるだろうか。


 番組中では、厚労省が主催して21年11月に岐阜で開催された「過労死等防止対策シンポジウム」で高橋幸美さんが話された時と思われる場面もあったが、来る6月29日・30日の東海ネットの交流合宿も、岐阜の近くの会場で催す予定だ。できること、できないこと、生きているからできること、いろいろあるけれど、まあ、やっていきましょう。


 

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